君への距離
はっきり言って、
翼は打たれ弱い。


野球でも、女の子のことでも、あまり打ちのめされたためしがないからだ。





これまでの野球人生、小・中・高と、チームにとって平尾翼という存在はいつだって絶対的なエースだった。
ケガを負った今だって、それは変わらない。

恋だって挫折知らずだ。
エースというだけで周りからはちやほやされていたし、いろんな女の子から想いを告げられた。
彼女だってつくったりもした。


(好きかどうかも分からない彼女に別れを告げられたってどこも痛くないんだ。)







ただ確かなのは、
今翼が完璧に打ちのめされているということだ。

痛くて痛くて、どうしようもないということだ。








些細なことで傷ついたり、
どうしようもなく幸せな気分にもなったり…



(両想いなんて…、きっと笑っちゃうくらい奇跡みたいなもんだ。)




杏とシオが仲良く寄り添い眠っている光景が思い出したくないのに浮かんでくる。

まぶたを閉じているのに…。






(いったい、どうすればいいんだろう?)





いつの間にか眠りに落ちた翼を乗せ、車はまた動き出した。








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