君への距離
ふう、とひとつ息を吐いた。



投げるのは半年ぶりだろう。

こんなに長い間野球から離れていたことは、今までに一度もない。

思えばずっと野球が隣にいたような気がする。









みんな食い入るように翼を見ていた。


翼もそれを感じていた。







ゆっくりと振り被り、








投げた!












バシッ!!



キャッチャーはボールをはじいた。



あの山下さんがバットを振ることもできなかった。









「捕れねえ…」

キャッチャーの緒方さんは悔しそうに空を仰いだ。






「……すごい。」
杏は呆然と翼を見つめていた。

吸い込まれるように、もう翼から目が離せなくなった。




(どうしよう…)




杏の胸はざわついた。
鼓動はどんどん加速していった。





(なんだろう。)
杏は熱くなった頬を両手で隠すように覆った。




(この気持ちは、なんなんだろう…)




6月の朝のひんやりとした心地よい風がふたりの間を吹き抜けていった。







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