君への距離
入学式、慣れないスーツでシオは緊張していた。


周りに座った女の子たちがひそひそシオのことを話しているのが聞こえた。


(悪い気はしないが、そうゆうのは聞こえないようにやってほしいもんだ!)


大阪から、わざわざこんな山に囲まれた田舎大学に入った理由はただ一つ…野球をやるためだ。



この大学は硬式野球と陸上が全国レベルだとして有名だ。


シオはレッドで翼、原田さんに続いて甲子園経験のある三人のうちの一人だ。


とは言っても、翼のように甲子園で話題になっていた注目選手というわけじゃなく、レギュラーとしてスタメン出場はしていたもののあまり目立った活躍はなかった。



甲子園では、一戦目で負けた。


県予選で優勝したときのみんなのあのテンションはすっかり消えてなくなった。




悔し涙もでないほどの大敗だった。


試合後、みんなが必死で甲子園の砂をビニール袋に入れているのをただただ呆然と見つめていた。


(こんな思い出、持って帰りたくもない…)



シオが軟式野球に入ったのは、ある意味自分を野球から逃してやるためだった。


激しいレギュラー争いや、先輩の圧力、後輩からのプレッシャー、それらすべてがあれだけ好きだった野球をちょっとずつ汚した。
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