良と遼〜同じ名前の彼氏〜
携帯電話は見当たらなかった。


スウェットのポケットに入れたままだからだろう。


あたしは部屋の端に置かれているキャビンにそっと手を伸ばす。


さっき少し見えたプリクラが頭を離れない。


あたしがキャビンの取っ手に手をかけたその時。


シャワーの音が止まり、バスルームの扉の開く音がした。


弾かれたようにあたしはキャビンから手を離す。慌ててテーブルの方に戻ってさっき食べた弁当の空箱やゴミを集め、さも今まで片付けをしていたかのように繕った。


ほどなくして、部屋の扉が開き、バスタオルで頭をガシガシふきながら遼平が部屋に入ってきた。


あたしは思わずクラッとする。


遼平の放つシャンプーの匂いはたちまち六畳の部屋に立ち込め、まるで麻薬のようにあたしを引き込んでいったのだ。


それは、初めての経験だった。


あたしは男性の色気というものを、知ってしまったんだ。




「奈美、お前も風呂入ってこいよ」


タオルを肩にかけながら遼平が言った。
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