良と遼〜同じ名前の彼氏〜
そこには誰もいなかった。

茂みの後ろに大きな木がある。その木に埋もれた街灯の光は地上まで届かず、あたしの背後は不気味に薄暗かった。


目を凝らすと、茂みの影に隠れたベンチが目に飛び込んできた。


あたしは無意識に走っていた。


慌てて追いかけてくる良ちゃんの声はもはや届かない。


ベンチにはうっすらと雪が積もっていた。木が傘になって、そこだけあまり雪が降らない場所になっている。


ベンチの真ん中にはぽっかりと、雪が全く積もっていない円ができていた。


明らかに、人が座ってた跡じゃないか。


その時、あたしは足元の光景に思わず息を止めた。


ベンチの下には、短くなった煙草の吸い殻何本も散らばっていた。


脇には、丸まった煙草の箱が捨ててある。


クシャクシャになった煙草の箱をあたしは急いで拾った。


その見覚えのある黒い箱の中央には、

「JPS」

と描かれた金色の文字が光っていた。
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