良と遼〜同じ名前の彼氏〜
涙で滲んだあたしの視界に映る遼平は、確かにあたしの方を見ていた。


一歩。また一歩、遼平があたしの方へ歩み寄ってくる。


遼平は、あたしの前で立ち止まった。


手を伸ばしたら触れられる距離に、遼平がいる。


あたしを見つめるその瞳の奥は深く、あたしを吸い込んでしまいそうな妖艶な色気があった。


あたしは思わず遼平から目を逸らす。


「泣いてんなよ」


遼平の手があたしの頬に触れた。
冷えきっていたはずのあたしの頬に、冷たい手の感触が染み込んでくる。


「だって…」


顔を上げた次の瞬間、唇に冷たいものが触れていた。





それが遼平の唇だとわかったのは、あたしの視界に遼平しか見えていなかった、その時だった。
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