月に問う
「良かったら使って下さい。」




その言葉で顔を上げると目の前には女がタオルを差し出し、微笑んでいた。




よく見ると透き通るような白い肌にほんのりピンク色の頬、眼鏡の奥には長いまつ毛と大きな瞳。




その瞳で見つめられ、ドキンと心臓が跳びはねた。




なんだ、この気持ち…




「私は大丈夫なので…。あなたの方がびしょ濡れ…、風邪引いちゃいますよ?」




そう言われ、女からタオルを受け取った。




『ありがとう…。』




女からタオルを受け取り髪の毛や制服を拭き、ふと女の方を見ると…




女は眼鏡を外し、レンズを拭いていて俺の視線に気付くとニコッと笑顔を見せた。




その表情が今まで出会った女達とは違い、すごくかわいくて、いつしか心臓がドキドキ鳴り始め、つい目を逸らしてしまった。




そんな俺の様子に女は気付かず、まだ降り止まない灰色の空を見上げて呟いた。




「雨…、まだ止みませんね。」


『はぁ…、いつまで降るんだよ。』




イライラしながら、まだ止みそうにない灰色の空を見上げていた時だった…


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