月に問う
「その様子だと…あの時から恋愛してないみたいだなっ。」


『うるせぇ…。』




そうだよ、岩井チャンと出会ったあの時から恋愛なんてした事ねぇよ。




この歳になってまで誰かを好きになるってどういう事か未だによくわかんねぇし…




今まで誰かを好きになった事がないなんて、俺だけかもしれない…




床に落ちたバッグを拾い、岩井チャンの方を見ると片付けが終わったらしく机の近くにあった椅子に座り、タバコの煙りを吹かしていた。




そして、自分の近くにある椅子をポンポン叩いて「ここに座れ」とこっちを見ないで仕草だけで命令した。




あんたもあの時と変わってないよ…なんて思いながら、仕方なく岩井チャンの近くの椅子に座った。




「今のお前って…昔の俺に似てるよ。」


『えっ?』




その言葉にびっくりして、岩井チャンを見るとタバコの火を消しながら眉毛を垂らし小さく笑っていた。




「俺もお前位の時さぁ…、本気で恋愛なんてした事なくてさっ…。適当に女と遊んで、付き合って、すぐ別れての繰り返しだった。でもさぁ、ある日……出会ったんだ。今まで会って来た女達とは違う女にさぁ…。」




岩井チャンは立ち上がり、窓際に歩み寄ると外を眺めた。




そして、そのまま外を眺めながら話を続けた。


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