空色パステル


「…え?」


と振り返る。








そこには学ランを着た人が
あたしの携帯を差し出しながら
立っていた。

外が薄暗くなってきているせいで
顔がよく見えない。



だけど、あたしは見た。


その人の肩が少し震えていること。



「あの…これ」


おずおずと差し出される携帯。
そっと受け取るあたし。



「ありがとうございます…」

とお礼を言うと、
その人は少し微笑んだ。


そして笑った。




胸の奥が

ドキン

と音を立てた。




その人の笑顔があまりにも
拓弥に似ていたから…


その人の顔を見つめる。


すると、涙が一粒
頬を伝った。


「へ…?!ごめんなさい…
あたし何かしましたか…??」




心配になって訊ねる。


その人は首を横に振って
涙を拭った。




ふと相手の学ランの名札を見ると

『寺本』

と書いてあった。




寺本……??
どこかで聞いたことのある名前。

考えを巡らすとたどり着いた先は…


『寺本 拓弥』

拓弥だった…





勇気をふりしぼって訊ねる。


「あなたって……
もしかして拓弥のお兄さんですか??」


その人は一瞬驚いた顔をした。
それから、頷いた。
ゆっくり口を開いて話し出す。





「そうだよ…義理のね」






時が止まった瞬間。



走り去る車の音

外で遊ぶ子供の声

雪に落ちる涙……



全部が聞こえなくなった。



どこか、音のない世界に
置き去りにされたような気分




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