空色パステル


遼への罪悪感が募る。


逃げようとしても、拓弥の腕が
あたしを離さない。



「拓弥ぁ……」


あたしの目から涙が零れた。





拓弥は唇を離すと

“ごめん”

と一言残して、あたしを抱き締める。




あたしはどうすることもできなくて
抱き締められたまま、時が止まった。




『…美緩、これだけはわかってくれるか?』


あたしを抱き締めたまま、
拓弥が小さく囁いた。


「…うん……」


あたしは震える声で訪ねる。




『俺…美緩が好き

もう一度やり直せない…?』


頬を温かい粒が伝う。

拓弥からの一言に、あたしは涙を流した。




…―嘘…だよね?


と思いながら拓弥を見上げる。




拓弥があたしの涙を細く長い指ですくう。



『嘘…なんかじゃないよ』


そう言う拓弥の目は真剣で
信じるより他、何もなかった。




だけど……
あたしは、遼がいるんだ。




でも、心のどこかで拓弥を忘れていない
自分がいた。




あたしの心のどこかに拓弥がいて
その存在は少しずつ大きくなってくる。




拓弥に優しくされる度…
拓弥の笑顔を見る度…


拓弥の…全てが。



あたしの全てを埋め尽くして
いくような気がする。






そっと拓弥を見上げる。



『俺だったら……

絶対に美緩を泣かせたりしない…』



寂しげに拓弥は言う。
その寂しげな表情の奥には、どこか
凛々しさを感じさせる強さがあった。





その笑顔はあたしに、

『俺だけを見て』



と訴えているようだった。






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