ピアノ
朝のまだ少し肌寒い空気の中、美音は机に頬杖をついて窓の外を眺めていた。
校門からたくさんの人が入ってくるのが見える。その視界を、桜の花びらがそっと邪魔する。

そんな夢心地のなか、美音は昨日の音楽室の出来事を事細かく思い出していた。

真木先生がいて、私はピアノを弾いて、ゆったりした時間が流れて。

先生は私の頭を撫でて、私は嬉しくて笑って。

永遠とも思える時間は、5時のチャイムで終りを告げた。

幸せな日々。

大好きな先生。


美音はこの気持が恋だと気付いていたけれど、それが苦痛だとは思わなかった。

だって、側にいるだけで幸せだから。


「おはよ、美音」

「あ、おはよう佳奈。」

「……また昨日真木先生のとこ行ったの?凄く幸せそうな顔してる。」

「え?…分かる?」

満面の笑みで美音が笑うと、佳奈はため息をついて美音の隣の椅子に座った。

「毎日毎日真木先生真木先生。飽きないねぇ」

「飽きるわけないじゃん。好きなんだもん」

はいはい、と佳奈は言うと、興味なさそうに携帯を取り出していじりはじめた。


飽きるわけ、ないじゃん。


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