ピアノ
「はい、席ついて。HR始めるわよ~」
担任が相変わらずの舌足らずで、教室に入ってきた。
「でも、あれじゃん」
隣で携帯をいじっていた佳奈が顔をあげる。
「何が?」
「大野。真木先生と付き合ってるって噂じゃん。どうなんだろね」
大野とは、今、美音の前で喋っている担任の名前だ。
舌足らずが可愛いと、男子生徒には割りと人気が高い先生だ。
「さぁ………分かんない。真木先生にも聞けないよ。」
気にはなるんだけど。
そう言って美音は窓の外をじっと見つめた。
視線の先には桜の木。
花びらが空を舞う。
「笠原さん、聞いてますか。」
美音はあわてて視線を大野に戻して、すみませんと呟いた。
黒板の前で喋る大野はとても可愛い。28歳独身なんて嘘みたい。
そんなことを思いながら、今日も音楽室に行くことを決めた。
頭の中で楽譜をなぞる。先生も私も好きな「別れの曲」
今の私の課題曲だ。