ツンデレラは王子の夢を見る
「…私、邪魔みたいだから先行くね」
「え、桐谷!?」
「桐谷さん、先行くんだってー…譲くんは私と行こうよー♪」
(わざとらしい演技、自分がそう仕向けたくせに…)
そう思っていても口に出したりなんかしません。
麻尋はこんな時まで、自分を押し殺してしまうのです。
後ろから少しいらだったような譲の声がしました。
それも、どんどん遠くなっていきます。
もう今の麻尋には自分のローファーが地面に擦れる音しか聞こえませんでした。
王子には、あんな子が似合うのかもしれません。
性格がいいとは、あまり言えないけど自分に自信があってかわいい人。
麻尋なんか、顔も普通で自分に自信も持てない、素直にもなれない。
鼻がつん、と痛くなりました。
慌てて、上着の袖で瞼を擦りました。
泣いたらだめ。
自分が泣いてなにになる?
ドラマみたいに雨が降ってくる訳じゃない、
王子様がやってくる訳でもないんだから。
「桐谷!」
ふいに麻尋は腕を掴まれました。
掴んだのは、今まさに思っていた人。
痛いほどの力で腕を掴まれて、麻尋の心臓がきゅう、と音をたてました。
(苦しいよ…なんで、追いかけてくんの、)
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