ツンデレラは王子の夢を見る



ぐずり、ずびび


奇妙な音が狭い遊具の中に響いていました。




麻尋は譲に置いて行かれた後、逃げるように公園の遊具へと潜り込んだのです。



マンホール状の遊具の中は少し暗くて誰かの忘れ物なのか、スコップが落ちていました。




「うぐ、う…っ」



麻尋の目からは涙が溢れて溢れて、止まりません。



悔しい、悲しい。


城市くんにあんな顔をさせてしまった自分が嫌い。




“ごめんな、桐谷”



(謝るのは、こっちのほうだ…)




魔法は解けたのです。


はかなくて脆い魔法でした。



でも、それでもツンデレラは幸せで幸せで。



すぐに覚めてしまう夢だとわかっていても、自分から覚めるのを拒んでいました。


少しでも長く、この幸せが続くようにと、眠る前にいつも思っていたのです。




「………は、」



短い溜め息が麻尋の口をついて出ました。



本物の幸せはほんとのシンデレラが手にするべき。


だから、これでよかったのです。



こうして、王子はシンデレラと末永く幸せに暮らしました。


めでたしめでたし―…






「…めでたく、ないよ」



全然、めでたくない。


だって自分にとってはバッドエンドなのだから。




“―…桐谷”


彼に名前を呼ばれること。



“優しいな”


微笑んでもらう嬉しさ。



その感覚全部を知ってしまった時点で、麻尋の気持ちは決まっていました。



だって、簡単に諦められる恋ではないのは分かりきっていることです。




「……好きなんだ、」



(優しい君が、好きで好きでしょうがないんだ)




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