revave
その日は、知り合いのバーのマスターに誘われ、夜からバーへの軽いアルバイトを始めた。


とは言っても今までも何回かそこには働きにきており、妙な緊張とかは全くしなかった。


8時過ぎに出勤し、まだ客が来てないのを見て、店のトイレで髪をいじっていた。



ワックスでカチカチに固めた髪。
鏡で見ると、まるでホストのようにも見える。


実際、ホストやれば?とかよく言われる。


そしてホストで成功する自信もある。


ただ、面倒くさいし、ホストという職業を真剣にやっている人間もいるのだから、俺のような中途半端な気持ちでやるのって、何か失礼な気がするんだ。



ドアが開く音が響いた。


マスターはまだ出勤していないので、慌てて表へ向かった。



真っ暗な店内。少しの照明が照らされる下に、その女はいた。




「いらっしゃいませー!!」


まるでガソリンスタンド並のノリだ。


俺の作られた笑顔をチラッと見た後、女は当たり前のようにカウンターに腰を下ろした。


茶色のセミロング。
白のワンピース。
透き通るくらい、白い素肌。



変な女だと思った。



水商売にも見えるし、OLにも見える。


すごく幼くも映るけど、もしかしたら俺なんかよりもずっと年上かもしれない。



「えっと…何飲みます?」


そう言うと、無言でカウンターの棚を指差した。


境月が並ぶ棚の一番前の真ん中。


ディズニーのキーホルダーがかけられていて、ネックの名前には


「リョウ」



と刻まれていた。



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