月恋 tsukiren
「…高野じゃん。何でこんな朝早くから走ってるの??」
思っていた疑問をぶつける。
「上条はなんでこんなところにいるんだよ」
高野は私の質問には答えず、私に問い返す。
「だって…誰かが一生懸命走ってるから…見られずには…ハッΣ!!」
答えが詰まる。
思わず素直に答えてしまい、恥ずかしくて顔が赤くなる。
「くっ」
高野が鼻で笑う。
「お前、ウケる」
「何っ…」
高野は私の反論なんて聞かずに、今度は自分のことを話し始めた。
「俺は…もっと早く走れるようになりたいから、毎朝早く起きて走ってんの」
それは…とても意思のある表情で。

そういえば、高野は陸上部だった。
いつも陸上の大会で上位に入っている。
だからあんなに一生懸命だったんだ…

正直驚いた。
今の高野はキラキラ輝いて見える。
あんなに最低な奴が、こんなに素敵に見えてしまうなんて…

胸の奥がギュッと締め付けられるような気持ち。
すごいドキドキして…
この気持ちはいったい、
…何??

ぼーっとしていると、高野から声をかけられた。
「じゃあ俺、もっと走ってくから」
フェンス越しにかかる声。
私はまだ赤い顔を上げて、エールを送る。
「ん。頑張ってね!!」
一生懸命走る後ろ姿を見つめながら。


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