プライダル・リミット
 嘘も方便。
(弁護士になんてなりたいわけじゃない。人の役に立ちたい? 考えたこともない。法律や制度は知っていることを前提にその効力を発し、知らぬ存ぜぬは通用しない。にもかかわらず、それらを知らずに法律を犯し、ただ制度を批判するだけの人間は、自らの怠慢を露呈しているようなものだ。そして、そこに付け入られる隙が生まれる。絶えず変わる法律や制度をどれだけの国民が理解していると思う? 国の周知不徹底にほとんどの人間が知りもしないだろう。そこに牙をむき、化けの皮を剥がし、本当の姿を現す。喰う者と喰われる者。知らない方が悪い。そういう社会だ。中途半端な知識は返って傷口を広げる。知らなければ知らないで幸せだろうに……)
 2階に向かう階段を昇りながら、マキオは母の思いと兄の願いを無視し、父の答えと社会の構造を嘲笑して、心の中で舌を出した。自我の発達と共に目覚めたものは、父への反抗心とコンプレックス、そして優越感。
 マキオは部屋に戻るなりすぐに机に向かった。
(司法試験は東大に合格してからでいい)
 旧司法試験第一次試験が免除される在学2年を待って、大学3年の5月、第二次試験に臨む。







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