プライダル・リミット
 マダムの意味深な言葉。マキオは「またか」と思った。カズはリュウ達とバンドをやりたがっている――否が応でも思考はそちらに傾いてしまう。そんなマキオの胸中をよそにマダムは話題を変えてきた。
「そうそう!」
「な、なんですか?」
「ライブが決まったの。来月13日の金曜日」
「ジェイソンのですか?」
「そうそう。13日の金曜日だからジェイソンのコスプレしてチェーンソー“ウイ~ン”てバカ!」 
「バカ……」
「違うわよ! リュウちゃんのよ。リュウちゃんのライブが決まったの」
「リュウの!? 1人で?」
「ソロはソロなんだけど、アタシの知り合いのミュージシャンにバックバンドをお願いしたの。久し振りにバンドでのライブだからリュウちゃん気合入ってるわよぅ」
「リュウがバンドで……」
 マキオの想いは複雑だった。
(たとえバックバンドであってもショウさんとケイさん以外の人とバンドを組むなんて……。それはもちろんショウさんにはモナートが、ケイさんには医者の道がそれぞれあることはわかっているけど……。頭じゃわかってるけど……。けど理屈じゃないんだ! リュウだって言ってたじゃないか! 〝フィーリング〟だって!)
 これまでリュウのことを想ってきた人達の気持ちを知ってしまった今、マキオにはリュウの行動が軽率に思えて仕方がなかった。

(リュウはそれでいいの? 音楽さえできればそれでいいの?)





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