プライダル・リミット
 2009年10月26日(月)
 試験3日目――
 午前7時、目覚まし時計が鳴る。あれからマキオはほとんど眠れずに朝を迎えた。とりあえずベッドから起き上がり、部屋のカーテンを開ける。空を覆う灰色の雲は絶望の予感か――。
「うん。約束だよ」
 マキオは小さく呟いた。

 リュウと最後に会ったあの日、2人は別れ際に――
「いよいよだな。俺も今度のライブがラストチャンスだ。それでレコード会社に認められないようなら、俺は音楽をやめる」
「どうして? やっとみんなとバンドできるようになったのに」
「それが俺のプライドだからさ」
「プライド?」
「自分との約束」
「約束……」
「結果はどうあれ決断に悔いはねぇ。それはみんなも承知してくれてる……」
「そっか……」
「それと、今度のライブが終わったらレイにプロポーズするよ」
「そっか」
「俺はまだ諦めたわけじゃねぇぞ。諦めてたまっかよ。絶対プロになってみせる。だからお前も絶対合格しろよな。俺達も頑張るから、お前も頑張れよ」
「もちろんさ。絶対合格してみせるよ。だからリュウも絶対プロになってよ?」
「ああ。約束だぜ?」
「うん。約束だよ」
 ――約束を交わした。

「僕、頑張るから……!」
 いざ、旧司法試験第二次試験口述試験最終日、試験会場である法務省浦安総合センターへ向かう――。



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