プライダル・リミット

「相沢……！」
　いつかここでマキオを罵倒したあの相沢が立っていた。
「ちょっと付き合えよ」
「急いでるんだ。通してくれ」
　マキオは毅然とした態度で拒否した。
「僕にタメ口きくとはエラくなったもんだな。あのウドの大木の影響か？」
「……」
　マキオは無視して相沢の横を通り過ぎようとした。
「待てよ！」
　マキオの右腕を掴む相沢。
「離せよ！」
　それを振り払おうとするマキオ。
「そうはいかねぇんだよ！」
　相沢はそのままマキオを路地に連れ込んで突き飛ばした。
「ずっとこの日を待ってたんだ。オマエが１人でいるのを。あのバカにいられちゃ迷惑だからな。僕はキミのために言ってるんだよ、マキオくん」
「リュウのことか……!?」
「アイツは自分の立場ってものがわかってないよ。僕達とアイツとじゃ住む世界が違うんだ。わかり合うことなんてできるわけがない。僕達は選ばれた人間なんだ。オマエだってそう思うだろ？　なあ？　なあ!?」
「それは違うよ」
「何が違うんだ！　この社会は使うか使われるかでしかない！　予め決められた、覆ることのない、そういう運命なんだよ！」
「運命は自分で切り開くものだよ。人生も、友達も……」
「そんなのは敗者の言い訳だ！」
「そんなこともわからないのか……」
「僕にわからないことなんてないんだ！」
「まるで、昔の僕を見ているようで……腹が立つ……！」
「ナニ？」
「かわいそうだね、キミ……」
「僕のどこが可哀相なんだ！　オマエまでアイツと同じこと言うのか!?　ムカつくんだよぉ!!」
　相沢は力任せにマキオに殴り掛かった。マキオは顔を殴られてそのまま地面に倒れこんだ。
「アイツにやられた借りはオマエに返させてもらうからな！ 友達なんだろ？　だったら平気だよな？　友達のために殴られることくらい！」
「……」
　マキオは相沢を見据えながらゆっくりと立ち上がった。憐れみを含んだ哀しい眼差し――。