プライダル・リミット
　２００９年１０月２７日（火）
　マキオが大学から家に帰ると、付近に停車する黒いセダンが目に入った。マキオは気になりながらも家の門を開けようとした時、車から人が降りてきたのがわかった。
「御手洗真樹夫くんですよね？」
　マキオは振り返った。そこにはスーツでノーネクタイの３０代後半から４０代前半と思われる男が立っていた。
「はい。そうですけど……」
「私、こういう者です」
　男はそう言ってマキオに名刺を渡した。
「フリーライター、近藤恭司……？」　
「はい。私、フリーでライターをやらせていただいている近藤と申します。今日は真樹夫くんに折り入って話がありまして」
「僕に……ですか？」
「ええ。今回の事件ご存知ですよね？　高円寺北の商店街で起きた……」
　マキオの心臓が少し速くなる。この男の言う“話”が快報でないことはすぐにわかった。マキオはそれを悟られないよう平静を装うことにした。
「ええ。知ってますけど」
「それじゃあ話が早い。お父さんのお怪我の具合はいかがですか？」
「は？」
「あれぇ？　もしかして知らなかった？　あの事件で被害にあった５０代男性が君のお父さんだって」
「えっ!?」


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