プライダル・リミット
 2010年4月
 マキオは母校でもある高校の教壇に立っていた。 
「……よって、g(x)に対し、区間[a,b] においてロルの定理を適用することができ、f'(c)(b-a)-{f(b)-f(a)}=0 を満たすcがaとbの間に存在することがわかり、f'(c)=f(b)-f(a)/b-aが成立する……と、このように人生には公式で解ける問題ばかりではない」
 急転する話題に教室がざわめく。
「人生は学校で教えてくれることがすべてじゃない。社会に出れば自分で学ばなければいけないことがたくさんある。それは学校じゃ教えてくれないんだ。人と人との繋がりの中で感じ、受け入れ、高めてゆくものなんだ。それに自ら気づくこともあれば、誰かに気づかされることもある。そこから心と心が織り重なることで紡がれる“えん”の尊さと素晴らしさを知ってほしいんだ。いい大学に入っていい会社に入る。それもいい。だけど、いい仲間ってのはそれ以上に大切なもんだ。だから、みんなにはこの学校生活でかけがえのない友達と、かけがえのない時間を過ごしてほしいと思う。そして、素敵な人生を歩んでほしいんだ」
 マキオは人との出逢いが心の扉を開き、情の道を経て、その先にある未来へと続いてゆくことを、これから一人の大人として社会に羽ばたこうとしている子供達に向けて懸命に説いた。
「先生。それって試験に出るんですか?」
 1人の男子生徒が冷やかすように訊いた。
「出るよ。今までだってこれからだって、今この時だって。この問題に正答もなければ終わりもない。人は生きている限り問い掛けられ続けているんだ」
「じゃあ、その問題はどうやって答えればいいんですかぁ?」
 マキオは教卓の両端に手を着くと、笑顔でこう答えた。

「フィーリングだよ」
 







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