プライダル・リミット

情緒

「わりぃ。ちょっとトイレ行ってくらぁ」
 改札を抜けると男はすぐにトイレに駆け込んだ。
(今のうちに帰ろうかな。そんなことしたら後で何されるかわかんないしなぁ。でも、もう会わなければいいわけだし……)
 そんなことを考えながらマキオは改札口で一人、男を待っていた。
“ドンッ”
「!?」
「いった~ぁ」
 マキオはその場で尻餅をつき、持っていた買い物袋からフィギュアやゲームソフトが飛び散った。とりあえず立ち上がったマキオのもとに女が近づいてきた。どうやらこの女とぶつかったらしい。
「ちょっと何そんなとこでボーッと突っ立ってんのよ! もっと端っこにいなさいよ! ここは改札口よ! 人が通る所なの! こんな所にいられたら邪魔なの! みんなの迷惑なの!!」
「す、すみません」
 女の激高ぶりに唖然としながらもマキオは力なく頭を下げた。
「なによ! 男のくせに情けないわね。カヨワイ女の子の私とぶつかっただけで倒れるなんて。ヒョロヒョロしすぎなのよ。男だったらもっとガッシリしてなくちゃ」
(なんか怒りの矛先変わってない? それは自分の男性論だろ? それに自分で自分のことカヨワイとか言ってるし。面倒な人にぶつかっちゃたなぁ)
「ちょっと人の話聞いてるの?」
「あ、はい。すみません」
「あ~もう、バイトの時間に遅れちゃうじゃない! 遅刻したらアンタのせいだからね!」 
 女はそう吐き捨てて走り去っていった。
(時間がないならベラベラ喋らなければいいのに。自分勝手な言い分ばっかり。誰かさんとおんなじだな)





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