プライダル・リミット
「リュウちゃんはアナタに自分と同じものを感じたんじゃないかしら?」
「あの人が僕に?」
「そうよ」
「どこにですか!?」
「さぁ?」
 マダムは再び笑みを浮かべた。まるで「自分で確かめてみなさい」とでも言いたげだ。
「タバコ、吸ってもいいかしら?」
「どうぞ」
 マダムはタバコに火をつけて軽く煙を吸い込むと話を続けた。
「ああ見えてリュウちゃんはミュージシャンなのよ。まだアマチュアなんだけどね。プロを目指してハタチの時に上京してきたの。今のアナタと同じ歳ね。それから路上で歌ったりオーディション受けたりしてるみたいだけど、なかなか芽が出なくてね。イイ才能《モノ》持ってると思うんだけど……。そんなリュウちゃんがね、このあいだ急に“あと1年で芽が出なかったら音楽をやめる”なんて言い出したの。アタシは“もったいない”って言ったんだけど、リュウちゃんはその訳を話してくれなかったわ。だからアタシもそれ以上は聞かなかった。あのコはとても芯の強いコで、周りが何を言っても聞かないのはわかってるから……。良く言えば揺るがない信念、悪く言えばただの頑固者なのよ。どちらにしてもプライドで生きてるってカンジね。自尊心というよりは誇りね。名誉とは高台から見下ろすことじゃなく、自分が何に対してそう思えるか。それを探し求め、追い続けているのよ。その先にあるものが栄光でも虚無でも。人生に正解も不正解もないけど、正解にも不正解にもすることはできるのよ」





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