プライダル・リミット
 マキオは人と話すのが苦手だ。まして自分の話をするなんて……。そんな口下手な人間が義務感にも似た思いから口を開いた。今し方、初めて出会ったこの得体の知れない女装男を前に自ら自分のことを話している自身の行動に驚きながらも、不思議と戸惑いはなかった。むしろ安堵感さえあった。本当は誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。ずっと前から……。家庭のこと、東大受験のこと、そして父との約束のこと……。だけど、弁護士ではなく裁判官を目指していることはその理由から言い出せずにいた。
 マダムはそんなマキオの話に黙って耳を傾けてくれた。
「ほうら。似てるじゃない、アナタ達。境遇が。家庭環境は違えど、それだけじゃないっていつかわかる日が来るわよ。アナタの選択も正しいのか間違っているのか、その答をあのコならきっと導き出してくれるはずよ。だから、アナタもリュウちゃんのこと応援してあげて。リュウちゃんがアナタのことを応援してくれているように……。あらやだ、アタシったら。ごめんなさいね、長話に付き合わせちゃって。お冷まだだったわね。それとクリームソーダ。リュウちゃん、あんなナリしてクリームソーダが好きなのよ。ウチに来たらいつも頼むの。かわいいトコあるでしょ?」
 マダムは半分以上灰になったタバコを灰皿に押し潰すと立ち上がってキッチンに戻ろうとした。
「あ、あの……、クリームソーダは、あの人が……リュウさんが戻ってきてから……その……」
「そう? わかったわ」
 マダムの微笑みを見た瞬間、マキオはこの者が発したこれまでの言葉のすべてに自分の言動が試されていたかのような気がした。
(この人……)








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