プライダル・リミット
“カランカラ~ン”
「すみませ~ん。遅くなりましたぁ」
 若い女性が勢いよく店内に入ってきた。
「もう。1時間も遅刻よ」
 どうやらここの従業員らしい。
「ごめんなさい。駅前でキョドってる変な人にぶつかっちゃって、足止めくっちゃった」
「1時間もぉ?」
「そ、そう。1時間も」
(駅前で……? まさか!?)
 マキオは背中越しに聞く2人の会話に「あの時の?」という思いを抱き、女の顔を確かめたい気持ちになったが振り向けずにいた。
(まさかな)
 マキオはとりあえず疑念を鎮めた。
「まあいいわ、気をつけなさいよ。それよりリュウちゃん来てるわよ。今お使いに行ってもらってるの」
「えぇ! またアイツ来てるの? そんなお金なんかないくせに。マダムはアイツに甘すぎるのよ。すぐ付け上がるんだから」
「まあまあ、そんなこと言わないで」
 どうやらリュウの知り合いでもあるらしい。
「それと、こちらはリュウちゃんのお友達のマキオちゃん」
 マダムはマキオをリュウの友達として紹介した。
「へぇ~。アイツが友達連れてくるなんて珍しいわね。てか、初めてじゃない? つーかアイツに友達なんていたの?」
(マダムと同じこと言ってる。でも、さっきマダムは“リュウちゃんには人を惹きつける何かがある”なんて言ってたけど、ホントかな? やっぱりアイツに友達なんていないんじゃないか?)
「はじめましてぇ。カナでーす。よろしくね、マキオ」
(よ、呼び捨て?)
 カナは下を向くマキオの顔を覗き込んだ。
「ど、どうも」
 マキオは恥ずかしそうに答えた。
「ちょっとぉ、人が話し掛けてるんだからちゃんと相手の目を見て話しなさいよ」
 マキオは言われるまま顔を上げた。





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