プライダル・リミット
(うわぁ~、かわいいコだなぁ……。ってやっぱりさっきの女じゃないか! 変な人って僕のこと? そもそも1時間の遅刻って、あの一連のやりとりを差し引いたって完全に遅刻じゃないか! それを僕のせいにするなんて……んっ?)
 マキオはカナが改札口でぶつかった時には持っていなかったはずのコンビニのビニール袋を手にしているのに気がついた。
(コンビニで買い物してて遅れたんじゃないか! 完全に確信犯じゃないか! それでも1時間は遅すぎる。コンビニでの買い物なんてせいぜい10分、20分だろ? きっと遅刻がわかった時点で“もうイイや、キリよく1時間遅れて行こう”なんて開き直ったに違いない。それで時間潰しにコンビニで立ち読みなんかしたりして、気に入った雑誌がないから本屋に行ってまた立ち読みなんかしたりして“そろそろ時間だから行こうかしら”って本屋を出て店に向かって歩いてる途中に顔馴染みの八百屋のオジさんに“カナちゃん、今日もカワイイね”なんて言われて“やだもうオジさんたら、お上手なんだから。今日は大根でも貰おうかしら”って道草してたんだ。そうに違いない。それを僕のせいにするなんて。だいだい初対面の人に対して呼び捨てにするなんて失礼じゃないか! 尊敬を表す接尾語を用いるのが礼儀じゃないのか! この性悪女!)
 カナの買い物袋に大根など入っていない。しかし、マキオの想像というより妄想は八百屋のオジさんとのくだりを除けばあながち間違ってもいなかった。







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