プライダル・リミット
 リンは深々とお辞儀をした。
「リンちゃんかぁ。カワイイ名前だねぇ」
(リンちゃんかぁ。カワイイ名前だなぁ)
「俺は藤真竜。みんなからはリュウって呼ばれてる。んで、コイツはタマゴ。弁護士の卵だからタマゴ。しかもこう見えて現役東大生だぜ。よろしくな」
(タマゴ? 弁護士の卵だからタマゴ? 安易なアダ名つけるなよ! それに“こう見えて”って“どう見えて”だよ!)
「すごーい。弁護士さん目指してるんですかぁ? しかも東大なんて頭イイんですね」
「ま、まぁ。でも弁護士では……」
 マキオはその先の言葉を飲み込んだ。
「それにタマゴっていうのもちょっと……あの……その……僕にはちゃんとした名前が……」
 マキオはリンの前で必死にこの低次なアダ名を否定しようとした。
「あれぇ? お前自分の名前嫌いなんじゃなかったっけぇ?」
 その様子に気づいたリュウがニヤけながら口を挟んできた。
「い、いや、そ、そんなこと……い、言ってません」
 マキオはとっさに嘘をついた。その気持ちがわかるリュウはそれを責めなかった。リュウは改めてリンにマキオを紹介した。
「コイツはマキオ。御手洗真樹夫。夢に向かって頑張ってる俺の自慢の友達」
(リュウ……)
 マキオは生まれて初めて、自分の気持ちを汲んでもらえることの嬉しさを知った。
「こちらこそ。マキオくん」
(マキオくん……!?)
 マキオは生まれて初めて、自分の名前を呼んでもらえることの嬉しさを知った。




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