プライダル・リミット
リュウはスタジオに入るなりハードケースからマーチンのアコースティックギターを取り出してチューニングを始めた。室内に無言の時間が流れる。物音はギターの弦がチューニングされる音だけ。沈黙がマキオを不安にさせた。
“ジャーン”
リュウがCコードを軽く鳴らした。
「マキオ、お前のフェイバリットは?」
「フェイバリット?」
突然のリュウの質問にマキオの答えが一歩遅れた。
「音楽だよ。何が好き?」
「カノンかな」
「カノン? 双子座《ジェミニ》の?」
「違うよ。それ、聖闘士星矢《セイントセイヤ》じゃん。古いよ。パッヘルベルのカノンだよ」
アニメオタクのマキオにはすぐに切り返すことができた。
「誰それ? そのパッヘルナントカって」
「ヨハン・パッヘルベル。コラール前奏曲とフーガの発展に貢献したバロック中期を代表するドイツの作曲家」
マキオは得意げに答えた。
「もしかしてクラシック? じゃなくてロックとかポップスとかさぁ」
「僕、そういうの聴かないから」
マキオはいまだそのプライドからリュウの前でクラシック以外の音楽を世俗的だと否定して強がった。
「マジで!? やっぱガリベン君は違うねぇ。あるだろ? 知ってるアーティストの1つや2つくらい」
マキオはリュウがパッヘルベルに興味を示さなかったことと自分がガリベン呼ばわりされたことに少しムッとしながらも、ちっぽけなプライドに邪魔された仕様もない強がりを後悔した。アニメ好きなことからもクラシック以外の音楽に触れる機会がないわけがないことは自身でも明らかだったこともある。
「知ってるよ。ビーズ、ミスチル、宇多田ヒカル、サザン、ドリカム、レミオロメン」
“1つや2つ”の問いにあえて3つ以上挙げたのもまた、そのプライドからだろう。
“ジャーン”
リュウがCコードを軽く鳴らした。
「マキオ、お前のフェイバリットは?」
「フェイバリット?」
突然のリュウの質問にマキオの答えが一歩遅れた。
「音楽だよ。何が好き?」
「カノンかな」
「カノン? 双子座《ジェミニ》の?」
「違うよ。それ、聖闘士星矢《セイントセイヤ》じゃん。古いよ。パッヘルベルのカノンだよ」
アニメオタクのマキオにはすぐに切り返すことができた。
「誰それ? そのパッヘルナントカって」
「ヨハン・パッヘルベル。コラール前奏曲とフーガの発展に貢献したバロック中期を代表するドイツの作曲家」
マキオは得意げに答えた。
「もしかしてクラシック? じゃなくてロックとかポップスとかさぁ」
「僕、そういうの聴かないから」
マキオはいまだそのプライドからリュウの前でクラシック以外の音楽を世俗的だと否定して強がった。
「マジで!? やっぱガリベン君は違うねぇ。あるだろ? 知ってるアーティストの1つや2つくらい」
マキオはリュウがパッヘルベルに興味を示さなかったことと自分がガリベン呼ばわりされたことに少しムッとしながらも、ちっぽけなプライドに邪魔された仕様もない強がりを後悔した。アニメ好きなことからもクラシック以外の音楽に触れる機会がないわけがないことは自身でも明らかだったこともある。
「知ってるよ。ビーズ、ミスチル、宇多田ヒカル、サザン、ドリカム、レミオロメン」
“1つや2つ”の問いにあえて3つ以上挙げたのもまた、そのプライドからだろう。