プライダル・リミット
「ああ。最後の……。で、あとは?」
 マキオはリュウが飲み込んだ言葉の続きが気になったが、目の前の問いに思考回路を強制的に切り換えさせられた。今気になるのは、この質問の終わり。
「最初の曲かな」
 ていうか、マキオはリュウのオリジナル曲の最初の曲と最後の曲しかまともに聴いていなかった。
「で、どんなところが?」
「テンポが速くて躍動感のあるところ」
 先の問いから次の問いは予想できた。だからすぐに答えも出せた。しかし、三度目はない。次もまた同じ質問をされたらアウトだ。マキオは気が気じゃなくなった。
「“Liberation”。俺達が初めて創った曲……」
 曲中で“Liberation from the worldly desires”と歌われるその詞は煩悩からの自由――解脱――を謳っていた。
(俺達?)
 マキオは複数を示す人称代名詞が気になったがあえて詮索はしなかったし、リュウもそれ以上は語らなかった。そう、今それ以上に気になるのは、この質問の終わり。
「そろそろ帰るか」
 リュウの一言にマキオは胸を撫で下ろした。あと最高8回は繰り返されたかもしれない問いにもはや答えることができない焦りと早く帰りたいのに帰れない苛立ち――2つの原因から生まれた1つの焦燥感――からの解放。
「そうだね」
 心なしか声が弾んでいたのは気のせいか。


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