プライダル・リミット
 2人はスタジオを後にして受付に向かった。
「おつかれ」
 受付の男が声を掛けてきた。さっきとは違う中年の男だ。
「いつも悪いね、マスター」
(マスター?)
 マキオは中年男の顔を見つめた。
「ここでは“マスター”って呼んでね、マキオちゃん」
「マダムぅ!?」
 そこにはただのオッサン、いや、厚化粧を落とした無精髭のマダム、いや、マスターがいた。
「マスターは音楽のことになると人が変わるんだよ。女から男に。めんどくせぇだろ?」
 理解不能による仰天と混乱への突入。マキオは呆気にとられて返答できずにいる。
「言ってくれるじゃねぇか。人に散々世話になっておいてよぉ。ツケの代金全額回収すんぞ」
「お疲れ様でした~」
 リュウは逃げるように帰ろうとした。
「オイッ! リュウ! ちゃんと頑張ってんのか?」
「ボチボチかな」
 リュウは背中越しに軽く手を挙げながら出口に向かった。
「あ、お疲れ様でした」
 理解不能による仰天と混乱からの脱出。マキオはマスターに一礼してリュウの後を追った。





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