プライダル・リミット
 マキオは無言で立ち上がり、コーヒーカップを手に取って冷めきったコーヒーを一気に飲み干すと、カラになったコーヒーカップをソーサーに戻して無言で出口に向かって歩き出した。
「ちょっとぉ……」
 カナの呼び掛けにも、
「マキオちゃん、クラブサンドは?」
 マダムの呼び掛けにも答えることなく、マキオは無言で店を後にした。
「カナちゃん。またマキオちゃんに何かしたんじゃないでしょうねぇ?」
「い、いえ。別に……」 
 さすがにカナもマキオに悪い気がした。
 マキオはうなだれていた。いつも他人事に聞こえていた街のざわめきが、いつも以上に他人事に聞こえていることに気がついた時、自分が我に帰っていることにも気がついた。
 そして湧き上がる嫌悪感。
(っっっ!! 腹立たしい! 人の心にズケズケと! オブラートに包むってことを知らないのか! 気品のカケラもない女だ! あぁぁぁ、思い出すだけでも腹が立つ!! あの女はサディストなんかじゃない! “ド”の付くSだ! ドSだ! いや、さらに“超”の付く超ドSだ!! もはや奇怪だ! 異常だ! その尋常なきまでのサディズムは猟奇だ! 猟奇女だ!!)
「マキオーッ」
 マキオは反射的に振り向いた。
「猟奇女!!」


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