詞游−コトバアソビ−
 ゴールデンウィーク一週間前に唯が僕を誘ってくれたから、アイツと話をしたのは今から一週間前位だった。

 住所不定のアイツに連絡が取れたのも好運だったのだが、アイツが既に『雨唄』に接触していたことが一番好運であり、意外でもあった。

『流石に俺へのコンタクトの取り方を知ってる奴の誘いを断れないしな。』
 言えて妙であった。住所不定のアイツを招待出来るほどの情報収集力があるといえ、平気で気まぐれに海外にも行く奴である。これまた、好運の重なりか…
『んで、左右田家の話をしたら、えらく気に入ってしまってなぁ、あのお嬢様。』
 結局今回の『雨唄』へ来るきっかけを作ったのはアイツだったのだ。


「確定してなかったからって、僕に頼む様な事じゃ無い気がするけど、まぁ調べ物は終わったしな。」
 整理も終わり、いい加減唯もあがっていると思うし、部屋に戻ろうとした。

 脱衣所には、ご丁寧に神坂さんの気遣いでタオルが置いてあった。軽く水気を拭き取り、先程まで着ていた服に袖を通す。実はそんなに汗はかいてなかったが、冷えた身体を暖めるにはお風呂は十分だった。
 女湯入口付近には唯と伯楽さんがペンを持ち、筆談していた。
「何話してるんだ?というか、書くのは唯だけで良いんじゃないか?」
「あ、おあがりになりましたか。しょうくん様。」
 二人が微笑んで迎えてくれた事に心躍りながらも、平常を装い近付いた。
「ええ、良い湯でした。ところで伯楽さん。」
「何でしょう?」
「しょうくん様っていうの、止めてもらえませんかね?別に嫌って訳では無いんですが、発音的に将軍様にも聞こえない事も無いんですが、なんか、堅苦しいのってダメなんですよ。」
 そうですか、と呟き伯楽さんは何か必死に考えはじめ、悩んでいた。急にパッと顔を上げ、僕に向いてきた。行動一つ一つが可愛すぎていけない。
「では、しょうくんで良いですか?」
 必死に考えた結果がこれなら僕も満足である。
「ええ、そっちの方が親しみ深くて良いですね。」
 そんなやり取りをしつつ、部屋の前に着くと伯楽さんはお仕事に戻って行った。少し名残惜しかった。

 部屋に戻るとコタツに入って、唯に二三質問して、なるほど。核心を、確信を得た。

 質問の内容は、様子を見に行った神坂さんと伯楽さんについてだ。

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