詞游−コトバアソビ−
−−−−事件偏−−−−

『忘れてはならない、君が奪ったモノを…殺したモノを…』

 夢見は悪かったが、目覚めは良かった。
「しょうくん、大丈夫ですか?随分うなされてましたが…」
 目を醒ますと、目の前には伯楽さんがいた。どうやら、コタツに入ったは良いものの、唯よろしく眠ってしまったらしい。
「いえ、気分は最高ですよ。至福のひと時と言えなくもない。伯楽さん、おはようございます。」
「はい、おはようございます。しかし、挨拶としては『こんばんわ』の方が似合いますよ。」
「え?」
 窓の外を見ると暗闇、携帯電話のフリップには二十時を表示していた。
「あー、寝ちゃったみたいですね…」
「みたいですね。」
 伯楽さんは微笑んで僕を見ていた。やけに顔が近い。
「…顔に何か着いてます?」
「蜜柑の皮が、頬に。」
 そう言うと伯楽さんは手を伸ばしてきて、頬についているものを取ってくれた。何だか夢のようだ。
「さて、そろそろお夜食の時間ですが、準備していただけますか?」
「そう…ですね。唯はまだ寝てましたか?」
 蒲団がしいてあるはずの部屋を見ると、蒲団は畳まれ整理整頓してあった。あれ?何かがおかしい。
「先程ここへ伺い、蒲団を片した後にしょうくんにお声をかけたのですが…左右田様はいらっしゃいませんでした。」
 寝起きで意識はまだはっきりしないが、反射的に立ち上がり部屋を出ようとした。
「しょうくん様…?」
「唯は…一人じゃ歩き回れないんだ。いや、歩き回らせられないんだ。」

 廊下を走り、食堂へ向かう途中。唯は山之々さんの部屋の前にいた。
「唯!」
 扉の方を向いていた唯は、無表情で僕を向いて一言、二言呟いた。
「…分かった。そこを退け。」
 扉に向かい、蹴りを入れる。扉を破るためにだ。
「…しょうくん様、どうか致しましたか?」
 心配そうに伯楽さんが話し掛けてきた。一瞬それが誰だか分からなかった。
「中で!死んでいる可能性が!」
 無我夢中で扉を蹴るが、びくともしない。
「くそっ!」

「止めな、言葉遣い。そんな風にむやみやたらに蹴っても開かねぇ様に出来てるんだからよ。」
 騒ぎを聞き付けてか、そこには三神 神成が立っていた。両手にはコードと水の入った袋と、黒いプラスチック状のお札の様なモノを持っていた。
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