詞游−コトバアソビ−
 外傷が腹部だけとなると、不意を狙ったとしても山之々さんは大の男。神坂さんには荷が勝ちすぎてはいないだろうか。
 それに、不可解な点は他にもある。それは、裸でだったのと、掻き出された内臓と身体の折れ具合。服を脱がす意味も分からない上、死後そんなことをするのは無茶だろう。それに、殆ど直角に曲がっていた肢体は腰ではなく、みぞおち辺りから折れ曲がっていたのもおかしいし、内臓器を大事に抱える様にしてそこに置かれていた。しかし、そこには足りないものもあった。
「小腸だけ無くなってるっていうのもおかしいんだよ…」
 リリスさんが小さな声で言った。場面をわきまえたのと、精神的な苦痛から自然と声が小さくなったのだろう。
 風が窓ガラスを叩く音が止まない。外は真っ白だった。

 頭は働くのを止めない。色んな考えが浮かんでは消えてゆく。

「じゃあさ、誰が最後に山之々さんに会ったのか、整理してみようか。」
 主導権は甲原くんに預けた。
 整理すると、僕以外の人が最後に会ったのは今朝の食堂だという、おかしな結果になった。
「死亡推定時刻とも近いし…どうなのさ?」
 甲原くんが僕に振ってきた。
「どうもこうも、アリバイは無いけど証拠も無い。第一、動機が無いのさ。それとも僕の第二の性格を疑うかい?」
 第二の性格云々は置いておいても、僕が犯人だということは有り得ないし、頼まれた仕事を考えれば難しい事だった。
 死亡推定時刻は四時半から六時半。次にその時間帯のアリバイ証明が始まった。
 猩々さん、帝洛さん、神楽さんはお互いに厨房にいたので、共謀の線を省けばアリバイが確立できる。
 同じく、澪奈さんとリリスさん、甲原くんが談話室でずっと喋っていたのは僕も伯楽さんも見かけていたので、同じく共謀の線を省けばアリバイ確立。
 鼎さんと伯楽さんは書斎で一緒にいた、というのと、女性だけだったのでアリバイ確立。
 三神は例の如く出掛けていて、店のレシートを持っていたので確立。
 心偉さんは、僕が立証できるのだが、信憑性が皆無で無理だ。部屋でずっと寝ていたというのと、一人だったので犯人候補外となり、同じく唯もそうなった。
 先程とおり、僕は仕事したあと自室で寝ていたのだが、一番疑われる羽目になった。
 だがその時間から、神坂 恋の目撃が皆無だったのもおかしいものだ。
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