詞游−コトバアソビ−
 食事を終えた僕と唯は、部屋に備え付けのコタツで暖をとっていた。眠りそうになると、唯が机をノックした。話し掛ける合図である。唯を向くと何かを言い出した。
「んー?…あー、うん。良いよ。付き合おうじゃないか。」
 唯は嬉しそうに笑い、立ち上がった。
「しかし、僕と一緒にお風呂入りたいだなんて…」
 唯は一気に顔を赤らめ、コタツの上に備えてあった蜜柑を投げてきた。

「お出かけですか?」
 伯楽さんはまだ食堂の掃除をしていた。出掛ける際は一声かけろと言われていたのを思い出したのだ。決して一緒に出掛けたいなんて思ってはいない。決して。
「はい、唯が雪で遊びたいと言うので。」
 そういうと、彼女は帯に挟んでいた手袋を取り出した。
「唯さんに渡してあげてください、霜焼けしては大変ですから。」
「ありがとうございます。唯、喜ぶと思います。」
 伯楽さんは、にこやかに会釈をして仕事に戻った。

 僕は貰った手袋を唯に渡し、靴を履き、玄関先に出た。
「凄いな、真っ白だ。」
 唯は隣ではしゃいでいる。流石に玄関の回りは足跡が沢山あったが、使用されていない広い駐車スペースには、誰かが踏み入った形跡は無かった。そこを見つけるや否や、唯は綺麗な白いキャンバスに人型を作った。飛び込んだのだ。
「危ないぞ、下が砂利だったら怪我するぞ。」
 気になって雪を少し掘ると、アスファルトが顔を出したので安心した。唯は起き上がって、僕に何か言った。

「わかった、雪だるまを作るんだな。」

 昼になり、部屋に戻ると昼食が用意してあった。とりあえず、汗を流してから食べることになり、唯を風呂へ見送ってから僕は男湯に行く前に、伯楽さんを探した。別に一緒に風呂に入ろうなど考えていない。背中位だったら流してほしくない事も無いが。

 すぐに伯楽さんは見つかった。と言うより、僕を探していたようだ。
「あ、しょうくん様、どうでした?」
「うん、凄いはしゃいでたよ、雪だるまが沢山並んでると思うんだけど、できれば壊さないでくれないかな、ってお願いは可能かな?」
「かしこまりました、そのように。」
 伯楽さんは微笑んでお辞儀をした。…目茶苦茶可愛い。
「そういえば、僕に用があったのかな?」
「あ、はい。晩の食事の件ですが…」
 僕的に幸せな時間だった。

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