『はな』と『つぼみ』
俺は大慌てで着替え始める。今日は土曜日。
本来、社員は土日は休みなのだが、俺の場合は先月のノルマを達成させることができなかった為、月初から成績を上げなくてはならない。
別に強要されてるわけではないが、またノルマを達成させることができなければ、また上司からの罵声や嫌味をあびさせられてしまう。
それだけは何としても避けたかった。

アイロンでよく整えられたワイシャツのボタンをしっかり閉め、ネクタイを少し緩めに絞める。

そうしたのには理由がある。
葉菜と喧嘩をした翌日に緩めのネクタイで葉菜と対面すると、世話好きな葉菜はネクタイを絞め直してくれる。
こうすることで、仲直りするきっかけになる。姑息だが、これが一番いい方法だ。


初めての喧嘩した翌日、会議に遅れそうだった俺は、着替えを適当に済ませた。
ボタンもちぐはぐに止まっており、ネクタイは不良よりも緩まっていた。

葉菜はそんな俺の姿に見兼ね、ボタンを丁寧に止め、ネクタイを優しく絞め直してくれた。

そして、葉菜は俺に笑顔を向けた。屈託ない、太陽に照らされた花のような…優しい笑顔。

俺はその笑顔を両手で包み、「ごめん」と謝った。


今日もそんな風に何事もなく、仲直りができる。そう思っていたのに…。
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