『はな』と『つぼみ』
この日、俺はいつにも増して不機嫌だった。
俺の勤務している会社は外資系生命保険の代理店。どこの家にも一度は訪問や電話などで勧誘されているやつだ。

俺の会社の場合は電話営業だ。
就活時代、内定が中々決まらず、訪問販売よりは簡単だろうと、安易な考えで入った会社。

今ではチームリーダーなんかやらされているが、成績が乏しいのが現状。

今日は月末で締日だ。上司からさんざん嫌味と罵声を浴びせられた帰路。

こんな日は一人でいたい。

アパートの扉を開けると、葉菜が笑顔で俺を出迎える。

「お帰りなさい」

「あぁ」

「ご飯の用意すぐにするね」
「うん」

これが俺達の最近の会話風景。葉菜の言葉に一言しか返さない。

今日はそれすらも面倒臭い。

着替えを済まし、再び居間へと戻ると、テーブルの下に数冊の雑誌が積まれていた。

一番上がファッション誌。その下がカタログ雑誌。一番下の雑誌の表紙が目に入ると、俺はそれから目を背けた。

葉菜も女だ。こうゆう幻想を抱いても不思議ではない。

「龍ちゃん、今日は龍ちゃんの大好物のハンバーグだよ」

葉菜の声に、焦って雑誌を奥に潜ませた。その拍子に崩れてしまった山から覗かせる雑誌が疎ましかった。
結婚カタログ誌。

今の俺には応えられないものだ。
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