【1】トイレの王様
 今度は壁に吊された、木製のカメを見付けた。

 お父さんとお母さんが律子が産まれる前に行った、海外旅行の記念だ。
 この手彫りのカメは、南の島からやって来たそうだ。

「ノロノロのカメさん」

 律子はニスで艶の出た甲羅に話し掛けた。

「トイレの王様って、本当にいるの?」

 律子は顔を近付ける。

「人が話をしているのに、背を向けているなんて、失礼なんじゃない?」

「……」

「何とか言いなさいよ。律子が聞いてるんだから」

 カメは黙って背を向けたままだった。

「少し頭を引っ込ませたわね。もう良いわよ。詰まらない人達ね」

 律子は怒って、首を傾げているダルメシアンの方を向いた。

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