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第一章 災厄は突然に

遠く近く、繊細かつ優美な音楽が聞こえる。
それは、神の神を讃える賛美歌。

天井に鎮座する、豪奢なシャンデリア。
金をふんだんに使い、磨かれたクリスタルが七色にキラキラと反射している。
部屋の床一面に張られた、血の色さえ思わせるベルベットの絨毯。

部屋の壁は白亜で、上座の壁には有名な画伯の絵画が飾られている。

そのタイトルは『清貧の聖者』。
粗末な衣を纏う聖者の周りに、民が縋り、天より雲の隙間を縫って差し込む光が聖者に降り注ぐ。
光はその衣を黄金の様に煌かせ、その上空には天使が祝福するように舞う。


神々しいその聖者は、この部屋に何を思うのか。


中央に置かれた大きなテーブルを囲うように、下座の一角を残して7人が座る。
深紅の衣に、それぞれの飾りをつけた老人たち。

その前に、一人の青年が小さな箱を差し出しながら膝をついた。

「これが今回回収した『ゾディアックの角』です。」

その一言に、最も上座に居た老人の従者と思われる男が箱を受け取り、開けた。

「おおっ!これが…っ!」

シルクの布に埋もれるように、雪を思わせる真っ白な角が入っていた。
触れることなく、老人たちはそれを確認すると息を呑む。
それを見ることもなく青年は、頭を垂れたまま厳かに口を開いた。

「先立って、報告しました通り、今回従者の一人が…。」
「そんな事はかまわんっ!些末な事よ。」

切り捨てられた一言に青年は動じることなく、立ち上がった。

「…御意。」

おそらくそこに居た誰もが気づかなかったに違いない、青年の右手がわずかに血臭を漂わせていたことも。


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