W-Children

  ※


約束が、あった。

他愛のない、口約束。

履行の誓約も、違えた時の罰則もなかった。
契約書も、指切りさえもない、そんなささやかな約束。


『また、逢おう。』

凭れ掛かる君の温もりに、言葉は出口を無くした。
頬擦りをすればくすぐったそうに、何時ものように笑うのに。

その心は、躊躇うことすら、もはやない。


優しい笑みを湛え、何にも揺るがぬ覚悟を抱き締め、君は歩いた。

進む先に、微塵の生も無いのに。

喉を枯らすほどの声も、目が溶けてなくなるかもしれぬ程の涙も、君に悲しげな笑みをもたらしただけ。



歩む先には、目を逸らしたくなるほどの、凄惨な光景しかなかった。

だが、どんなに罵声を浴びせられても、石をぶつけられても。

決して目を背けず、真っ直ぐに見据えて。



燃え盛る焔が火竜のように四肢に絡む。


悲鳴をあげたかったろうに。

鎖を引き千切り、死の腕と化した熱の塊から逃れたかったろうに。

…それだけの力があったのに。



君は、君の信念が故に逃れることの出来た運命を受け入れた。


ただの一度も、『使役』しなかった君。

友と呼んでくれた、最初で最後の君。



君を失くしたくなかった。
君を喪くしたくなかった。


だから。



君にした最初で最後の、裏切り。



願うのは、ただ一つの約束と。


もう一度だけで良い。
もう一度だけ、名前を呼んで…。
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