夢見月夜に華ト僕<連載中>
「こんばんは」
俺の目を吸い込むような瞳で見つめながら、女は緩やかな仕草で妖艶な笑みを浮かべ見せた。
そんな女に動揺させられ、言葉を奪われてしまったのは、俺の方だった。
確かに今、この月夜に“こんばんは”という言葉は、不自然なものではない。
けれども、今この場所で、この状況で、この不思議な女から発せられた、
生まれた時から何度も耳にしてきた、平々凡々な5文字の言葉は、どうしても違和感を感じずにはいられなかった。
クスッ――
放心状態に陥っていた俺に気付いたのか、女はバカにしたような小さな笑い声を上げた。
その声で我に返った俺の中に、頭の中を浮遊していた疑問が、明確な形となって俺に迫ってくる。
俺は、次々に沸き立つ疑問のひとつを冷静にと心で呟き、女に投げ掛けた。
「ここで何してるんだ?」
「……」
女は何も答えない。
振り返った時のままの微笑みを貼り付け、少しも崩すことなく、ただ俺を見つめ続ける。