夢見月夜に華ト僕<連載中>
ワタシ
「私、記憶喪失なの」
カイやあの男に言った言葉は、決して嘘ではなかった。
私には、過去がない。
気付いたら、人混みの真ん中に立っている自分がいた。
どうして、自分は今ここにいるのか――
理由を辿る術は、私の記憶に見出すことはできなかった。
それどころか、ここが何処なのかすら、わからない。
自分を名乗ることもできない。
そんな惚けた状態だった。
私の傍を通り抜けていく人々は、ボロボロの姿の私に、ほんのひとときだけ不審な目を向けると、
すぐにまた、何事もなかったかのような無表情な顔で、自分の世界へと戻っていく。
こんなに数え切れないくらいの、人の渦の真ん中にいるのに……
誰一人として、私に手を差し伸べようとする変わり者は存在しない。
私の存在は、異質なのだと、しっかり線引きせれていたのがわかった。
それでも、そんな異常ともいえる状況下においても、
特別、恐怖心や危機感を抱かない自分もまた、不思議なものだった。
私は、フラフラとさ迷うように、アテもなく歩き続けた。
そうして私は、あの公園に辿り着いたのだった。
心の疲労は、微塵も感じないが、体力の方がそろそろ限界らしかったので、
私は目に付いたベンチで、一休みすることに決めた。
自分の体の状態ならば、十分把握できているというのに……
私は、自分自身の心を捉えることはできなかった。
――“無”。
私は、まさに抜け殻そのものだった。
私の心の中には、何も生きていない――