夢見月夜に華ト僕<連載中>
流れ着くように初めてこの場所に来た時には、ちっとも気付かなかった。
ベンチの前で、暗闇に溶け合って広がる池の向こうには、
満開の桜が、まるで光を放っているかのように、幻想的に浮かび上がっていた。
しばらく目を奪われていた私は、ふと気付く。
その場所へと導くように、目の前で揺れ動く、薄黄色に輝く道筋を――
漆黒に広がる池の真ん中には、月明かりに照らされ、
咲き誇る桜に向かって、迷い無く真っ直ぐな、一本道が創られていた。
私は、何の躊躇いもなく、気休め程度に張り巡らされている柵を乗り越え、
幻想の世界へと、足を踏み入れる。
けれど――
足を踏み入れた瞬間、突き刺すような冷たさが全身を駆け巡り、
確かにあったはずの光の道は、私の足下から消え去っていた。
寒さに震えて、慌てて再び岸に後戻りする。
当たり前だ。
そんなこと、当然のことだった。
目の前に広がるのは水。
そこに創られた道は月の光。
私達が足を着けることを、許されるはずが無い。
多分私は、月が放つ魔力に、魅せられていたのだと思う。
わかっていても、何故か自分の愚かな衝動を止めることができなかった。