夢見月夜に華ト僕<連載中>
現実のこの場所から見つめているだけなら、確かにその道は存在しているというのに……
「は、はははは――」
空っぽの渇いた笑いが、暗闇の中に広がっていく。
思い知らされる。
私は、紛れもなく“人間”なんだと。
あの男も、すれ違ってきた道行く人々とも何も変わらない。
同じカタチをした人間。
私自身は、こんなにも実態を持たない曖昧さばかりだというのに……
皮肉なものだ。
目に見えるカタチだけは、しっかりと存在しているのだと実感する。
私は、濡れた身体と、おかしな自分を、諦観の深い深いため息に変えて、空気の中に溶かすと
“人間らしく”岸沿いを伝い、改めて桜の木を目指して歩き出した。
水を含んだ衣服を通して染み込んでくる夜風が、空っぽの心を、
より一層、浮き彫りにしているような気がして、また少し笑えた。