夢見月夜に華ト僕<連載中>
……大丈夫。
どうせ居るわけなど、ないのだから。
微かに震える自分自身をなだめながら、桜の木へと向かう。
1ヶ月前の花弁は跡形もなく、今はもう姿を変えてしまったであろう場所へと。
情けないくらいに。
酷く、ゆっくりとした足取りで――
池の前で一呼吸置いた後、ワザと桜の木を視界に入れないようにして、
あの時と同じように、岸沿いを伝って、桜の木を目指す。
ようやく辿り着いた頃には、こんな狭い公園で、どれだけ時間を掛けているんだ。
と呆れるほどの疲れを感じた。
実際は、どんなに遅かったとはいえ、1分足らずの時間だったはずなのだけれど。
しかし、俺にとっては、ものすごく長い長い道のりを、
とてつもない労力を費やして行き着いた場所のような……
どうしても、そんな不思議な感覚を拭い去ることはできなかった。
地面に向けていた視線を、今まで以上にゆっくりとした動作で、桜の木へと移す。
そうして、やっとのことで俺の視界に映り込んできた桜の木は、
予想通り、満開に彩られた花弁を全て剥ぎ取っていた。
季節は、これから夏を迎えようというのに、
今年の役目を終えた目の前の大木は、なぜか俺に寒さのような虚しさを感じさせる。
……そして。
“やっぱり”と言うべきか……
女の姿も、そこにはなかった。