夢見月夜に華ト僕<連載中>
一瞬のうちで覚悟を決めた俺は、勢いよく振り返る。
「こんばんわ」
……あれ?
振り向いた先には、記憶の中と同じ微笑みでたたずむ女がいた。
泣いてないし。
何も変わってないじゃねぇか。
単なる俺の勘違いなのだから、騙されたとは思わなかったが、なんだか拍子抜けの気分だった。
まぁ、実際に女が涙を浮かべていたところで、どうしようかなんて、わからなかったのだけれど。
……ったく。
何も考えてないだなんて、また俺らしくもない。
「こっち来て」
呆然とする俺に、女が手招きをして、俺を呼び寄せる。
呼ばれるがままに近付き始めると、女は俺を待たずに、背を向けて歩き出した。
それはまるで、俺が付いてくることは当然、とでもいうような自信のある背中に見えた。
またしても、女のペースに巻き込まれようとしているのはわかっているが、
俺は、どうしても抵抗する気になれず、素直に同じ足取りで後を追った。
そして、今さっき見たばかりの池の前で、足を止めた女は、
相変わらず、ゆったりとした仕草で、薄暗い外灯の下に設置されたベンチに腰掛けた。
「座って」
女は、唇だけで微笑みを造りながら、自分の隣を小さく叩いて、俺に座れと命令する。
それでも、俺はやっぱり少しも逆らうことなく、指示通りに動いた。