夢見月夜に華ト僕<連載中>
「絶対また来てくれると思ってたわ」
沈黙を保ったままで、地面を見つめるだけの俺に
女は、若干の高揚を露にした声で、話し始めた。
その声に顔を上げると、今日初めてまともに見る女の顔は、この前よりも、ずっと傍にあった。
今さっき感じた声の先入観のせいか……
心なしか、瞼の淵が赤みを帯びているような気がした。
……まったく。
一体全体、何を考えているのか。
腹が立つ。
さっぱり読めない女だ。
「アンタさ、なんて名前なの?」
心の中でそう呟きながら言い放った声は、思ったよりもぶっきらぼうだった。
俺の中で、コイツの名前は“女”。
まずはとりあえず、名前が欲しい。
……それなのに、この女は相変わらず、見事に予想外な返事をくれやがる。
「わかんない」
「……はぁ?」
「……わかんないの」
「……」
俺はそれ以上、返す言葉を見つけられなかった。
怒っていいのか、笑い飛ばせばいいのか……
今までの俺の常識を覆すような言葉ばかりを受け止めていたら、
俺は、いつもの自分を、すっかり見失ってしまっていた。