夢見月夜に華ト僕<連載中>
戸惑いを隠しきれない声で、俺は、もう一度同じ質問を繰り返す。
「いや、だから名前。アンタの名前だよ」
まるで俺が、とてつもなく大きな問いかけをしているように、ドキドキした気分だった。
「んー……わかんない。そうだ!君が決めてよ」
「は?」
明暗でも思いついたみたいに、目を輝かせて、わけのわからないことをあっけらかんと言ってのけるコイツに、
常識はずれなのは、やっぱり俺の方ではないのかと、思わずにはいられない。
「お前……名前、ないわけないだろ?」
別に、諦めてしまえばいいものを。
半ば、俺は意地になって、少し荒くなった口調で、問いただす。
「だって……私……」
すると女は、一瞬目を伏せると、チラリと池を見やった。
――あぁ。
コイツ、またしても、自分は人魚だとか、この前みたいに、
フザけたことを言って、俺をからかうつもりか。
一ヶ月前のやり取りを思い出し、俺はようやく気付く。
二度もからかわれるなんて、俺も随分ナメられたものだ。
この前みたいに、怒りの感情にまかせて、帰ってしまうこともできた。
だけど、今日の俺の心の中は“好奇心”という名の、低俗な感情が勝っていた。
……仕方ない。
俺の負けだ。