夢見月夜に華ト僕<連載中>
忘れもの
幻影の中をさ迷ったような、月夜から一転、サクラのことは、まるで夢物語であったかのように、
俺は、いつも通りの、穏やかで気だるい朝を迎えていた。
眠気を吹き飛ばすために、冷水で乱雑に顔を洗い、歯磨きをして、ワックスで髪型を整える。
それから、白い壁に掛かった時計の針を気にしつつ、適当に買い置きしてあるコンビニ製のパンをかじり、
玄関に備え付けられている鏡で、髪型の最終チェックをしてから、本格的な俺の朝が始まる。
髪型の決まり具合が、その日の気分を多少左右する要素となるのは、何も女に限ったことではない。
男だって、それなりに身なりには、気を配っているものだ。
山の上にある大学までは、バイクで数十分。
大量の土地を要する“大学”らしい、人混みからは離れた、ふさわしい場所だ。
「おっす、海斗」
講義室に入ると、いつの間にか自然とつるむようになった何人かの、見慣れた奴の顔がある。
テレビドラマでよく見かける、キャンパスライフ。
その影響で、勝手にイメージしていた、白で統一された、だだっ広い教室。
大学といえば、どこでもそんなものなのだと思い込んでいた。
しかし、実際のところは、そんな教室は数えるほどで、
残りは、高校の時と大して代わり映えのしない、少し古びた教室。
まぁ、所詮はそんなものか。
自分の抱いていた想像と、現実が違うなんて、日常のいたるところに転がっている、よくある話。
ガッカリはしたが、だからといって、特に気に病んだりなんてしない。
――“仕方がない”。
この一言で、大抵のことは簡単に済ませてしまうことができるのだから。